意識と無意識はどこが違うのか分かりますか?
今回紹介する本は、フランス人の世界的な認知神経科学者スタニスラス・ドゥアンヌが書いた「意識と脳」。
最新の研究結果をもとに、謎が解明されつつある人間の意識に迫ります。
意識と脳――思考はいかにコード化されるか スタニスラス・ドゥアンヌ 紀伊國屋書店 2015-08-27
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読んで感じたこと
意識はひとつのことしか処理できない
1番面白かったのは、意識と無意識の情報処理のやり方の違い。
無意識は、たとえば目で見るものや耳から聞こえるもの、呼吸や体温調節など、あらゆることを同時に処理しています。
一方意識は、1度にひとつのことにしか注意を向けられません。しかも処理できる早さはせいぜい0.3秒に1つと非常に遅い。
これは、無意識から上がってきた無数の電気信号の中からひとつを選びとり、それを脳全体に強い脳波で情報共有をしているため。
意識がマルチタスクできないということは、わたしたちが日常何かやるときもシングルタスクに集中した方がいいということですね。
自己理解と他者理解の差
もうひとつ興味深かったのは、自分と他人を理解するときの脳の処理に違いがあるのかということ。
研究結果によると、外界からの感覚を受け取る部分は自分のことを考えているときにも同様にはたらいていたところのこと。
つまり人間は、他者理解と同じように、状況を類推して自己理解を行っているのです。真の意味で自己を知ることはできないということ。
読書メモ
意識を科学として扱えるようになった理由
- コンシャスアクセス(感覚刺激を選択してそれに気づく能力)に焦点をしぼって、このあるなしを詳細に調べることで意識の理解が進んだ。
- トリックを使って意識を自由に操作できるようになった
- 盲点や錯視など、見える見えないの比較ができる。
- 被験者の主観的な報告を科学データとして扱うようになった
意識と無意識の違い
- 意識はひとつのものごとしか扱えない。
- 時間が短すぎると意識できない「心理的不応期」がある。
- 無意識は、ある程度の単語の視覚認知、チェスの盤面の把握、音声の認識など、かなりのことができる
- 無意識の活動は発生源の脳神経回路に限定されていて、大規模なネットワークにはならない
- 無意識は知覚できることからあらゆることを想定して準備をする。意識はその中から1つを選びとる。
- 記憶を引き合いに出す、複数のステップをつなぎ合わせるなど、問題を合理的に解決するには意識が必要
- 引用「自己とは、社会経験を通じて得られた情報を、他人の心の理解に適用されるものと同じフォーマットで蓄えるデータベースであり、そのために自己の理解に関しても、空白や誤解や妄想が生じ得る。」
- ひとつの物事にしか意識を向けられないのは、意識のシグナル脳波P3波を連続して発生させられないため。
- 意識のあるなしには閾値があり、P3波が生じるかどうかなので、不連続となる。
- 意識されない情報が届く範囲が、脳の神経回路の狭い領域に限定されるのに対し、意識的に知覚された情報は、皮質の多くの領域に長期にわたって広範に分配される
- 側頭葉前部では、特定の刺激(クリントンの写真、世界貿易センタービルなど)を意識したときだけ発火するニューロンがある。他にも、顔細胞や場所細胞などもある。さらにそこだけに刺激を加えると、その現象が知覚されたように感じる。
グローバル・ニューロナル・ワークスペース
- 意識とは脳全体の情報共有である
- コンピューター・シミュレーションによって、意識が発生したときに生まれる現象をある程度再現できた
- 記憶の意識化とは、過去に経験した意識の瞬間に起こったニューロン群の活性化パターンの近似的な再構築である
植物状態の判定
- 脳死と昏睡を明確に分けられるのか
- 脳の離れた場所の間の情報共有を脳波から読みとることにより、かなりの精度で見分けられるようになった
脳の成長と人間の脳の特異性
乳児の脳の機能は、成人より最大で4倍くらい遅いものの顕在意識は存在する
動物でもコンシャスアクセスや自己に関する知識をある程度は持っている
人間の特異性は、思考や信念を心の中で組み立てて操作することができることにある
まとめ
実験の解説や専門用語が多くて正直読みにくいのですが、書かれていることは知的好奇心が刺激されまくる内容ばかり。
読んでいてこんなにワクワクできるなんてしあわせです。
誰にでもおすすめはできないですが、興味があるならぜひ手にとってみてください。
意識と脳――思考はいかにコード化されるか スタニスラス・ドゥアンヌ 紀伊國屋書店 2015-08-27
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